金曜夜の衝動と琵琶湖での静かな失敗

金曜夜の衝動と琵琶湖のほとりで過ごした静かな失敗

週の終わりが見えてくる金曜日の午後。オフィスの窓から見える空が少しずつオレンジ色に染まっていくのを眺めていると、ふふっと自分の中で何かが持ち上がる感覚があります。30代、40代と年齢を重ねるごとに、その「何か」は具体的になってきました。それは、とにかくどこか遠くへ、一人になりたいという強い衝動です。

かつて、金曜の夜といえばスポーツジムの「コスパ」に通い、慣れないバーベルを握って必死に筋肉の動きを意識していた時期もありました。マシンの上で隣のランナーを横目に、自分の身体を論理的に分析しながら走る。それはそれで有意義な時間でしたが、今の僕が求めているのは、もっと根源的な「解放」なのだと気づかされます。

深夜20時の衝動

その日は、どうしても山に入りたいという予感が朝からしていました。結局、パッキングを終えて自宅を飛び出したのは夜の20時。目的地は比良山系の武奈ヶ岳の麓にある、いつもの出発点付近です。深夜の比良駅に降り立つと、当然ながら人影はありません。暗闇の中にパトカーの赤い警告灯が見えたとき、僕は咄嗟に足を止めました。

以前、深夜に歩いていて職務質問を受けた時の、あの何とも言えない面倒なやり取りが頭をよぎったからです。せっかくの静寂が台無しになるのを避けるため、僕はその場で引き返し、反対方向の近江舞子駅へと向かうことにしました。この予定の急変更すら、ソロキャンプの醍醐味です。誰にも相談せず、自分の直感だけでハンドルを切る感覚は、何物にも代えがたい自由を感じさせます。

琵琶湖の仮宿

近江舞子駅の近くには、子供の頃にバス釣りで通った小さな池があることを覚えていました。時刻は22時。終電が行ってしまう前に、今夜の寝床を確保しなければなりません。ようやく琵琶湖のほとりに、テントを張るのにちょうど良いスペースを見つけました。

波の音だけが聞こえる湖畔で、一人で設営を済ませる。この時間は、日常のあらゆる役割から切り離される貴重な瞬間です。会社での立場も、家庭での責任も、ここでは一切関係ありません。目の前の布一枚をどう固定し、どう夜を凌ぐか。その単純な思考の連続が、疲れ切った脳を心地よく麻痺させてくれます。

しかし、現実はそう甘くはありませんでした。設営を終えて一息ついた後、そこが実はテント設営禁止エリアであることに気づいたのです。ルールを破るわけにはいきません。結局、一睡もできないまま、周囲が白み始めるのを待って撤収することになりました。武奈ヶ岳への登山計画は、この時点で完全に潰えてしまいました。

失敗の先の充足

翌朝の始発列車に揺られながら、僕はひどい眠気の中にいました。計画は無茶苦茶になり、目的の山にも登れず、深夜の湖畔を徘徊しただけ。客観的に見れば完全な失敗です。かつてジムで効率的に筋肉を鍛え、体重の数値をシビアに管理していた頃の自分なら、この無駄な時間に自己嫌悪を感じていたでしょう。

ところが、不思議と気分は悪くありませんでした。パトカーの赤色灯から逃れたスリル、そして静かな湖面。それらすべてを自分一人で決定し、引き受けたという事実が、心の澱を洗い流してくれたような気がしたのです。老廃物が体から抜けていくような、あの瞑想後の感覚に近いものが、このドタバタ劇の中にも確かにありました。

始発の電車で帰宅し、泥のように眠る。僕の短い夏はこうして唐突に終わりましたが、こうした「計画通りにいかない時間」こそが、今の自分を支える重要なパーツになっています。次はもう少し早めに家を出て、ルートを練り直すつもりです。まずは、このひどい眠気を解消してからですが。

今回の教訓と、急な変更に対応してくれたギアの備忘録を残しておきます。

  • 夜間移動を想定したヘッドランプの予備電池チェック

  • 公共交通機関を利用したエスケープルートの事前確認

  • 深夜の設営でも迷わないためのギアスリングの整理

📚 おすすめの関連書籍

著者: 青木祐子
著者: 青木 祐子/uki

🛒 筆者が使ってみたおすすめ商品

¥7,279
¥1,860